ナイショの恋人は副社長!?


「営業二課の小林さんをお願いしたいのだが」
 
受付に立つ優子よりも、ひと回り大きくがっしりとした身体と、細く鋭い目。
そんな強面の男性が、野太い声でそう言った。

今本は一瞬引き攣った顔をしたのを優子は見ると、怯えているのだと察する。
その男性は、受付のふたりに対して問いかけていたので、優子が応対を買って出た。

「小林ですね。失礼ですが、お名前を頂戴してもよろしいでしょうか? すぐに連絡を取りますので、少々お待ちください」
 
今本と比べ、微塵も動揺を見せずにニコリと笑う優子は、物怖じせずに対応する。
速やかに案内を終えた優子を横で見ていた今本が、目を丸くして言った。

「……今の人、初めて見る人だったし……雰囲気とか見た目とか、すごく怖くなかった?」
「あ、初めてですよね、やっぱり。メモしておかなくちゃ」
 
ケロッとして返しながら、優子は自分のノートにサラサラとペンを走らせる。

「ゆ、優子ちゃんってすごいよね。そういうところ、肝が据わってるっていうか。なんでかな?」
「えっ。そんなことないですけど……なんていうか、慣れてるっていうか」
「慣れてる?」
「あ! いえ、なんでもないです」
 
感心するように言った今本に、優子がボソッと漏らす。
優子はそれを聞き返されると、慌てて誤魔化すように顔を横に振って笑顔を向けた。
 
今本は少し不思議そうな顔をしながらも、深く追求することをせずに話を続ける。

「だけど、そんなふうにしっかりとしてるから、副社長も接待に同席させてもいいって判断したのかも」
 
突然、敦志の話題になってしまうと、優子はすぐに反応できなかった。
それは、昨夜のことが瞬時に思い出されてしまったからだ。
 
あれだけ見た目が怖い来客に顔色ひとつ変えなかった優子が、敦志のことを思い出すだけでそわそわとしてしまう。

「あ、終礼の時間だ。片付けして上がろっか」
 
幸い、そんな優子の様子に気づかなかった今本が、腕時計を見て言う。
優子は平静を装って返事をするが、内心は未だに動揺したままだった。

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