ナイショの恋人は副社長!?

着替え終えて更衣室を後にしたあとも、優子は落ち着かない。
そのわけは、昨日敦志とある約束を交わしていたからだ。


――『明日と明後日。私と一緒にいてください』

 
敦志にそう頼まれた優子は断れる雰囲気でもなく、ただ一度コクリと頷いた。

(今日と明日……。そう限定して言われたのだから、言うまでもなく他意はない)
 
やはりこの約束は、敦志の善意と責任からきているものだと確信して、優子は変な期待と緊張を取り除くために深呼吸をした。
 
敦志から、定時後すぐには仕事を切り上げられない可能性があるから、人通りの少ない裏口で待つように言われている。
それは、社内での待ち合わせが一番危険がないと敦志が考えてのことだ。
 
そこまで深読みしていない優子だが、指示された通りに裏口へ向かおうとエレベーターに乗り込む。
階数表示を見上げ、静かなエレベーター内で手を胸にあてた。

(なかなか治まらない)
 
深呼吸まで繰り返していたのに、未だに落ち着かない心音。
それはやはり、どんな理由であるにせよ、これから敦志に会うというところからきている。
 
一階に着き、エレベーターを降りる。
いつもならば、正面玄関へと向かうところ。しかし、今日は途中で左の通路を曲がり、裏口へと向かう。
 
優子が分岐点である廊下で左へ足を向けたところに、遠くから呼ばれた気がして立ち止まった。
顔を上げると、目に飛び込んできたのはブロンドヘア――ヴォルフだ。

「やぁ。ユウコ! 会えてよかった!」
「……こんにちは」
 
昨日、優子の携帯を使って敦志に電話をしたことなどなかったように、ヴォルフは普通に振る舞う。
しかし、優子はやはり、多少警戒しながら言葉を返した。

戸惑う様子の優子を見て、ヴォルフは眉を下げる。

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