過保護な彼に愛されすぎてます。


薬の入っている棚の前まで行き、引き出しをあける。
頭痛薬や風邪薬が入っている薬箱のなか、胃薬を取り出して……あれっと首を捻った。

使用期限が二年くらい先だ。
買ったのが四年前なのに、六年も持つものだろうか。

なんとなく違和感を感じながらも、まぁいいかと片づけ、胃薬を一包持ち、カウンターテーブルに戻る。

食事中に席を立つとか、郁巳くんがいたら怒りそうだなぁと思いながら、フォークを持ち直した。

『まぁ、おまえらの問題だから……あんまり首つっこむつもりもないけど。ただ、もし不破が恋愛関係になりたいって言ってきたとき、坂井は不破の気持ちにどう応えるんだ?』

『不破が坂井を好きなのはわかりきってるけど、坂井の気持ちがどうなのかは、見ててもわからなかったから。やっぱり幼なじみとしか見てないか?』

エアコンのわずかな機械音と、テレビからの賑やかな声が聞こえる部屋。
お昼休み、吉原さんに聞かれた言葉が脳裏をよぎる。

あのとき、見つけ出しそうになった答えは、たぶん、正しくなかったなと、パスタをフォークにくるくるしながら思った。

「守りたいなんて、うぬぼれもいいとこだし」

ぽつりとこぼした言葉が、ひとりの部屋に落ちる。

郁巳くんが私に向けているのは、恋愛としての好意じゃない。ただの依存だ。
今日、お昼に真野さんと並んでいるところを見て、そう思った。

私以外にもあんな顔できる郁巳くんを見て……そう思った。

郁巳くんは、私なんかよりも広くまぶしい世界に身を置いているっていうのに。
私がここに留めて守ってたらダメだ。

ふたりでいたって、ダメなんだ。
郁巳くんはもっともっと世界を広げないと。

そして、そのなかで、郁巳くん全部を好きになってくれる誰かを見つけたほうがいい。
郁巳くんと同じくらいキラキラしていて、手を引っ張ってくれるような人を。

そうしたらきっと、過去のトラウマから救われる。
本当に、やっと、救われる。

「もし、真野さんがいいってなったら……郁巳くん、かなりの面食いだな」

美男美女カップルだなーとぼんやり思いながら、痛む胃にパスタを詰め込んだ。




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