◆Woman blues◆
『分かった。駅前のSビル10階のバー《alexandrite》で待ってる』

アレキサンドライトは、私と秋人のお気に入りのバーだ。

落ち着いた雰囲気で、音楽はいつもブルース。

インストゥルメンタルの時もあれば、ヴォーカルインの曲も流れるが、いつもブルースメロディオンリーだ。

オーナーの気まぐれでたまにピアノの生演奏があるが、それもブルース。

店に入るあと一歩のところで深呼吸をして、私は重厚なドアを開けた。

「いらっしゃい」の代わりの、やさしい笑みに会釈して秋人を探す。

秋人は先に来ていた。

長い足をもて余すように組み、カウンターに片肘をついてバーボンを呑んでいる。

さあ、泣く準備はもう整えた。

今更、ジタバタするなんて、アラフォー女がすたる。

私は彼の数歩前から笑顔を作ると柔らかい声を出した。

「秋人」


◆◆◆◆◆◆

一週間後。

「怜奈ちゃん、企画部から上がってきた資料の用意出来てる?」

怜奈ちゃんがしっかりと頷いた。

「はい、人数分コピー済みです。後で配布します」

「ありがと。今日の会議は企画部との合同会議だからね。皆、絶対遅れないでね」

頷いたデザイン一課の面々を確認した後、私は課長のデスクに歩み寄った。

「課長。私、会議後、工場顔出して直帰していいですか?」
< 27 / 143 >

この作品をシェア

pagetop