◆Woman blues◆
身体がヒヤリとした。

私以外の誰かが、自分の夢を覚えていてくれた事実。

嬉しくもあり、罪悪感も生まれる。

だって、靴のデザインをしたいと隆太に告白したのはもうずっと前だ。

そう、十年以上前。

本当は靴のデザインがやりたかったけど日々の忙しさから、私のその夢は目の前の日常に埋もれてしまっていたのだ。

隆太が寂しそうに笑った。

「確かなのは、お前の夢の邪魔をしたくなかったって事なんだ。だから自分の気持ちに蓋をして見ないふりをしていたんだと思う。
踏み出せば結婚したくなる。子供だって欲しくなる。結果的にそれらがお前の夢の邪魔をするのが嫌でもあったんだ。
途中で道を変えるということは、時間も努力も多く必要になるから。
それに、友達ならずっとお前の側にいられるしバカも言えて飲みにも行けて、お前の近いところにいられると思ったんだ」

早鐘のような心臓を制御出来なくて、私はクラッとよろけた。

「佳菜子とは妥協で結婚した訳じゃないと思ってたけど、俺はどこかでお前の代わりにしていたのかも知れない。だからあいつはあんなことを言ったんだと思う」

なんと言えばいいのか分からない。

「隆太……私、混乱してる。何て言っていいのか」

隆太が再び私を優しく抱き締めた。

「……今の俺なら、もしもお前が夢に突き進んでも、邪魔せずに見守ってやれる自信があるんだ。だから徐々にでいいから、俺との事考えてくれないか」

頷くしかなかった。

切々と語る隆太が、真剣だったから。

その後私は暫くの間、隆太が去った玄関を見つめて動けなかった。
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