紳士な婚約者の育てかた
そのさん


どんな高級なご飯を食べたってこの家にはお風呂がない。
正確に言うとあるけど壊れていて使えない。
ので何時も二人で向かうのは近所の昔からある銭湯。

帰宅して休憩を少し挟んでからいつもの様にお風呂セットを
用意していたらリビングでパソコンに向かい何やら検索中の知冬。

「知冬さん何見てるんですか?そろそろお風呂行きましょう?」

知冬の隣りに座ってパソコンの画面を見るが何か分からない言葉の羅列
だったので視線を知冬に向けて問いかける。

「近々風呂を直しましょうか」
「え?え、でも。どうやって?まさか自分で」
「父に話しておきました。二つ返事で了承したので業者が来ます」
「でもそんな急に」
「いっそリフォームして使いやすい快適なものにしようと思います。
おばさんが戻ってきた時のためにも。あの風呂は老人には少々厳しい」
「……バリアフリーは良いと思いますけど」

工事はいいけど、お値段のほどは?全額こっちが負担ですよね?

せめてちょっとくらいは値下げしてくれます?

「業者に見てもらって見積もりを出してもらいましょう」
「……、この際おもいっきり素敵なお風呂にします」

いや、ケチっても仕方ない。それにお金ならあるじゃない。
おばさんがコツコツと貯めてくれていたお金が。
自分が使うにはあまりにも不相応で勿体無いから、こんな時こそ。

「二人で入れるとか?」
「そんな意味じゃなくってバリアフリーの方!」
「そんなとはまた酷く冷たい言い方だな」
「……傷つけたらごめんなさい」
「……」
「知冬さん」

突然黙る知冬に怒らせたかなと心配になる。
こんな場合何をどうしたら良いかなんて分からないから、
そっと彼の手に触れてみるくらいしか出来ない。

「行きましょうか」
「……」
「志真が俺を怒らせたかと心配している顔をみたら元気が出ました」
「……性格悪い」
「はい?」
「早く行きましょう。時間遅くなっちゃいますから」

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