紳士な婚約者の育てかた
「所で、何か用事があったんじゃ?」
今日はもうこれくらいにしますと知冬が立ち上がり片付けをし始める。
彼にそう言われて今更ながらハットした。
これじゃただ知冬の邪魔をしに来ただけみたい。実際そうだけど。
「お義母さんのお話を」
「それは本人が来てからでいいでしょう」
「……そう、なんだけど。事前に何か知っておいたほうがいい事とか」
例えばお義母さん大好きとか一緒に住んでるとかその辺。
「彼女のことを心配しているんですか?大丈夫ですよ、あれならまだあと20年は生きる」
「寿命の心配はしてないです。いえあの、健康であってはほしいですけど」
「ああそうか。母親が君に面倒を言うと思っているんですね?」
「そこまでは」
「何があっても志真は俺の婚約者ですから、大丈夫」
知冬は志真の手を握りしめ優しく微笑んでいる。
「知冬さん」
「志真。誰も居ないから、…ここでキスして」
「……私から?」
「そう。…して?」
そのまま軽く抱き寄せられて、知冬の顔が近づく。
確かに誰もない。隣の美術室ではたぶん部員さんが真面目に絵を
描いているのだろうけど。ここへは入ってこないと思う。
なにせ先生の邪魔はするなとセキュリティが厳しいから。
「……じゃあ」
私だって彼に甘えてみたい。たまに学内でもイチャイチャ抱きつき合って
こっそり影でキスなんてしてるカップルを見るし。自分からは恥ずかしかったけれど、
背伸びをして軽く触れるくらいのキスをしてそれで大満足の志真。
「……」
「…あ、あの。えっと。……ご不満?」
そのままの体勢でじーっと動かない知冬。
これはつまり、もっとやれと?あるいは下手くそだったってことかな?
沈黙がたまらず訪ねてみるが返事はなく、ただじっと見つめられたまま。
「……」
「知冬さんそんな睨まれたら怖い」
「……睨んでません、何時まで我慢出来るか考えていただけですよ」
「……すいません」
結婚してからじゃないとダメとかで。
「そう思うならもう少し触っても?」
「…うん」
「……」
「……いえ、あの、そんなダイレクトに胸を掴まないでください」