紳士な婚約者の育てかた
真面目な顔をして正面から胸を鷲掴みとかロマンスの欠片もない。
志真は即座にその大きな手を掴んで退ける。
「…D…いや、C……か」
「怒りますよ」
「どっちかっていうと?」
「Dかな…じゃなくって!そうじゃなくって!」
さらっと人のカップを答え合わせしないで。
恥ずかしくて死にそうになるから。キスだけでも勇気がいったのに。
「静かにしないと生徒がきます」
「あ。そ、そう、ですね。…じゃあ、私は先に出ますね」
「分かりました。じゃあ、いつもの様に駐車場で」
「はい」
「志真、きちんと報酬を支払うので一度モデルに」
「なりません」
これ以上は体が危ない気がするので知冬から離れ部屋を出る。
キスくらいなら、と思ったけれど。
あのままじゃそれ以上も軽く飛び越えそうで怖い。
知冬に甘えたいけど彼にあまり近づけないのはそのせい。
いい歳して何してるんだろう、相手は婚約者なのに。
でもだからって結婚前にそんな。
学校のパソコンでは流石にはばかられたのでネットカフェで
こっそり検索したようなアンな事やらソンな事を知冬さんと?
どうしよう、上手く出来る自信がない。
「どうした?また生徒に追い返されたか?」
「そちらこそ部活は」
顔を赤くしたり青くしながら職員室まで戻ってくると
遅れて入ってくる西田先生。
「ああ、志真のおかげで無事に備品を調達出来たから。その受取に。
すぐ部活戻るけどどうだ?お礼に俺がコーチしてやろうか?」
「要らないですよ。運動は苦手って知ってるくせに」
「知ってる知ってる。小中高ずーっと体育2だったよな」
「……」
「まあまあ、そう怒るなって。じゃあ、あれだ。プロ野球のチケット」
「どうせならもっと美味しいものが良い」
「島田屋のラーメンか?」
「部活頑張ってください」
志真が子どもの頃からある近所の小さいラーメン屋さん。
味は普通。でも学生のために山盛りにしてくれる心強い味方。
つまり生徒やら子分への報酬にはもってこいと。
ばかにして。
でも、何度かそれに釣られた事があるのは事実。
思い出して夕飯はラーメンが食べたいなぁ、と思いつつ。
知冬がなんというか怖いので別のものを考える。
「パスタは?」
「え?」
「昨日、ペスカトーレを作るつもりだと」
「…食べたい?」
「Oui」
「……まあ、麺類だよね。ちょうどいいか。よし。じゃあ、作る」