紳士な婚約者の育てかた

これってハグっていうんだよね、知ってる知ってる。
ほっぺたにキスも挨拶だよね、わかってるわかってる。

でもそれって挨拶だから5分も10分もしないよね?

「……長い」

ホテルの最上階にて母親と合流した知冬と志真。
待ちきれなかったのかエレベーターの入口でスタンバイしていた母親に
びっくりしている間もなく、息子を引き寄せ愛しそうにハグハグハグ。

一見すると熟女と若者の外国人カップル、それを眺めてるもの好きな女の絵。

最終的に知冬が母親から距離をとってこの熱い歓迎の儀式は終了。

「お待たせしました」
「…い、いえ」

何も無かったように振り返って志真を呼び寄せる知冬。
昼間も一緒に居たのだと思っていたが、違った?

「母親はさっきまで部屋で寝ていて今覚醒したそうです。何時もこうなんですよ、
少し離れただけでまるで何年も会ってないように寂しがる。こんな時は下手に
拒否するより満足するまで黙っている方が楽なので」
「……なるほど」

志真の顔からきもちを察したのか説明気味に言ってくれた。
まだ何か母親は言っているけれど、彼は思いっきり無視して
3人で一緒にレストランへ入る。
ホテルのバイキングなんて普段なら感動モノだけど。

知冬と腕を組んで楽しそうに食事の説明を受け、お皿の手配や
料理についてアレコレと指示をして飲み物も何か言っている母親。
志真はその勢いに押されてソレどころじゃない。

知冬はやって貰うことが普通、当たり前、のように特に何も言わないし。

思っていた以上にこれは厳しいかもしれない。


「どうかしましたか?顔色が良くないようですが」
「あ。いえ」

どこからどうやって二人の間へ飛び込もうか悩んでいる志真だったが
はたからみると調子が悪い人に見えたようで、
立ち止まって居たら側にいたお客さんに声をかけられる始末。

「従業員を呼びましょうか?それとも私は医者なので、よろしかったら診ますが」
「こういう場所にはあまり慣れてなくて、緊張してしまったみたいです」
「そうでしたか。実は私も、高い所が苦手で。でも席が窓際で内心困っていた所です」
「席変わってもらえないんですか?」
「それが」
「志真」
「失礼、彼女は体調があまりよろしくないようだから。様子を見て上げてください。
もし医者が必要な場合は何時でも言ってください」
「ありがとうございます」

名刺まで貰って軽く会釈すると相手は去っていった。
お金持ちが利用するお店だから?それとも偶然?
あんな紳士な人が居るなんて、初めてかもしれない。

「志真。なに?何を貰った?彼は誰?」

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