紳士な婚約者の育てかた

さっきまで母親につきっきりだったのにいつの間に居たのか
志真の手から素早く名刺を奪いしげしげと見つめる知冬。
そして、びっくりするほどの早口でまくし立てて質問してくる。

流石にコレはヤバイんだろうと志真でも察して、
こちらも早口で先ほどの人はただ志真が調子を崩したと思い
気遣って声をかけてくれたお医者さんだと説明をした。

けど、顔がすごーく不機嫌。

「私は大丈夫ですから、知冬さんお義母さんの側に」
「連絡先書いてますね」
「連絡先っていうか、お医者様だから病院の電話番号」
「これは俺が貰ってもいい?」
「え?え、ええ。…どっか悪いの?」
「いいえ。さ、君の食べたがっていた料理はこっちですよ」

そう言ってポケットに名刺を突っ込んで志真の手をとりその場を移動。
そんな怒られるほど話し込んでないし、相手は調子を気遣ってくれた紳士で。
でも、そんな話をしても彼はおそらく余計に機嫌を悪くするだけだ。

ここに来て気難しい怒りん坊な知冬さんが出てきた。

こうなると時間経過しか今のところよい解決方法は無い。

「パエリアだ。美味しそう」
「……」
「ほら。知冬さんも。勿体無いですよせっかくバイキングなのに」
「そうですね」
「お義母さん大丈夫ですか?席でずーっと知冬さん見てるけど」

それはもう視線が背中からお腹へ突き抜けるくらいに。

「ええ、大丈夫ですよ。ワインが来たらそっちに夢中になるでしょうから」
「そう?」
「ほら。志真、もっと料理を取ろう」
「はい。あ。エビだカニだ。もらおうっと」

野菜はほんの少しだけとり後は自分の好きなものを夢中でお皿に料理を詰め込み、
1周めはこんなものかな?と席へ戻る。知冬は量は少なく種類は豊富に。
主に薄味のものや野菜中心。そんな彼のお皿を見てから自分のを見て、

お義母さんの前だしもう少し気を使えばよかったかと今更思ってももう遅い。

「志真サン、ワイン?」
「はい。頂きます」

母親にやっと声をかけられてビクっとするけれど、笑顔で。とにかく笑顔で返事。

もはや挨拶やらボンジュールやらは頭から飛んでいって無い。

お酒も入り気分がいいのか母親はフランス語で息子に何やら延々と語りかけて
志真に話しかけてくるときは知冬を介して何とか3人での食事会が始まる。

知冬が言うには殆ど日本での彼の暮らしぶりと作品は描いているのかということ

あと、婚約者についての質問も幾つかされて。

まるで面接官。いや、実際面接中か。相手はもう5杯ほどワイン飲んでるけど。

「志真?何処へ?」
「えっあっ……おかわり…」

緊張してもお腹はすくようで早々にお皿を綺麗にした志真がお皿を持って
立ち上がったら知冬が真面目な顔で見つめて来るからびっくりした。

「…そう、俺も行く」
「でも知冬さんもうお腹いっぱいじゃ。あ。デザート?」
「そうですね、そうします」

何でそんなに気にするんだろう。

もしかしてこっそりさっきの人の所へ行くとか思ってる?

まさかね。
< 27 / 102 >

この作品をシェア

pagetop