紳士な婚約者の育てかた

知冬さんは優しい紳士なのか、無自覚に意地悪な人なのか。
どっちにしても怒るとびっくりするくらいへこんでしまうので
取り扱いには注意しないといけない。

芸術家さんはやっぱり繊細なんだろうな、無神経そうに見えて。

「志真。ほら。言われた通りにアイスを買ってきた」
「ありがとう」

歩きまわって疲れたので目についた公園のベンチに座り
側に出ていたお店でアイスを買ってきてもらった。
はじめにお金を持たせておけばよかったが彼がさっさと行ってしまうから。

「790円」

期待したけど無理にでも引き止めて持たせたら良かった。

「……細かいのないんで800円でいいですか」
「冗談ですよ。ほら、食べて。食べて機嫌を直してキスしよう」
「アイスは食べるけどここじゃしませんからね」

隣りに座る知冬はアイスを持っていないから志真の分だけかってきた。
勿体無いからかな。欲しければあげるけれど。
セレブ家庭で何不自由なく育ってるのに何でこんなせこいことに?

だめだ、褒めなきゃ。褒めなきゃ彼は伸びない!

「どうしました?ああ、トイレ?我慢はよくないですよ?」

褒めなきゃ…。

「…買ってきてくれてありがとうございます。うれしいです」
「顔を見て言って欲しい」
「すいません、アイスが溶けちゃうから」

知冬さんわかってないよね。今貴方の顔を見たら

その綺麗な顔に全力でパンチしそうだから我慢してるんですよ。

「…楽しいな。志真と2人でこうして歩けて」

志真のアイスを持っていない方の手を握って幸せそうな婚約者。
今のところ志真が楽しめる要素はゼロだと気づく様子は全く無し。

「久しぶりにトモエさんの画廊へ行きます?」
「良いんですか。君はあまり好きじゃなさそうだったけど」
「今は堂々と婚約者として行けるから」
「そう。じゃあ、行きましょうか」

アイスを半分くらい無心で食べて彼にも少しアーンと食べさせてあげて。

こころと体が回復した所で次の移動場所を決める。

「知冬さんの作品、売れちゃったかなあ」
「売れたらしいですよ。連絡がありました」
「ええっ。…そっか。残念」
「買いたかった?」
「婚約者に高価な絵を買わせるような人なんて」
「…なんて?」
「公務員の安定した給料でローン組んで買うからっ」
「トモエさんが喜びそうだ。…けど、俺と結婚したら買わずにすみますね?」
「……」

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