紳士な婚約者の育てかた
そのじゅういち

日曜日の朝7時。

「志真…流石に早すぎませんか…?」
「何時来るか分からないから」
「眠い。昨日は君が寝かせてくれなかったから」
「そ、そんな変な言い方しないで」

何時かは分からないがとにかく朝から義母が来ると聞いて
のんびり眠れるようなそんな図太い神経は持っていない。
6時には起きて準備を済ませ、
7時には朝食を食べようと知冬を起こす。

「……志真、キス」

比較的早起きで先に起きていることが多い知冬の寝起き顔はレアだけど、
今はそれよりも早く朝食を済ませたい。
気だるそうに手を伸ばす彼に軽いキスをして座らせる。

「掃除もしたし、ワインも置いてあるし。食べて貰えそうなものも冷蔵庫にあるし」
「……」
「後は知冬さんが上手くまとめてくれるから私は二階でパソコンしててもいい?」
「駄目ですね」
「ですよね」

多分だけど義母からしたら息子さえ会えたら志真はどっちでもよさそう。
いちおう、抱きしめてキスの挨拶はしてくれるし知冬ごしに話もするけれど。
強烈なハグの嵐を今日も見ることになると思うとちょっと複雑。

「下手に口を出すよりも、好きにさせておけば終わりますから」
「知冬さんが元気ならそれで納得してもらえますよね」
「何時まで確認するつもりなんでしょうね?40になっても50になってもこの調子だと」
「ふふふ」
「俺のことは志真が見てくれるからいいのに」
「でもお義母さんはまた別じゃないですか?」
「母親は俺に1枚でも多くの作品を残すように何時も言っています。
俺を監視し世話を焼くのはその為ですよ、純粋な愛情だけではない」
「それもやっぱり愛する息子の作品だから」
「描かなければいけないから描くわけじゃない、心の中で湧き上がるものがあるから描く。
そんな愛情を押し付けられても面倒なだけです」

それはそう、なのかもしれないけど。

母親でさえもこの調子なら奥さんなんてもっと気を使うことになるのかな。

難しいな。やっぱり。

「…じゃあ、部屋に飾りたいから描いてって言ってもだめですよね」
「何の絵?」
「猫の絵とか」
「志真が言うなら描く」
「い、いいの?そんなあっさり。…あ。わかった。10万とかでしょ」
「金は取りませんよ」
「……」
「将来的には自分の家に飾るものに金をとっても意味がないでしょう?」
「あ。…なるほど、ね」




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