気まぐれイケメン上司に振り回されてます!
3.一番近くにいても
***


「はあー、会議は午後四時からって言われて俺たちここにやってきたんだよね? もう三十分も過ぎてるんですけど。いつまで待たせるんだろうね?」

「吉葉、そういうことを言うな、聞かれたらどうするんだ。俺だってさっきから待たされてイライラしてるけれど、おとなしく待ってるんだから」

「どこがおとなしいんですか。貧乏揺すりがうっとうしい」

「そういうお前も肘掛けをカツカツ爪で鳴らすのやめたほうがいい。耳障りだ」

あなたたちは……!と、わたしが一番ハラハラしながらソファに座って、担当の人が入ってこないかと待たされている応接室のドアを気にしていた。

今日は、広告デザイン案をプレゼンするため、大手自動車メーカーへ景さん、賀上さんと出向いていた。

なので今日のわたしは髪を下ろして緩く巻き、ジーンズではなく裾がひらりとした膝丈のスカートを履いて、少しでも品良く見えるように頑張っている。

ディレクションの賀上さんと、担当の景さんがいれば十分なはずなのだけど、どっかの誰かさんが『俺、パソコン操作しながら話すの苦手なんだよなあ。説明に集中したいし、俺が話すときは春ちゃんが隣でスクリーン画面操作してよ』というワガママを言ったので、仕方なくわたしも一緒に行くことになったのだ。

景さんの家に行った日の後、そこからわたしと彼の距離がとくに変化するようなことはなかった。

わたしは、あのときキスをしてしまいそうなくらい顔が近づいたことを思い出すと鼓動が騒ぐけれど、景さんは普段通りだしあれは冗談ということがよくわかるから、わたしも意識しないようにすることにした。
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