密星-mitsuboshi-
ベッドの上で、ヘッドボードに背もたれた渡瀬に寄り添う早紀
渡瀬は早紀の肩を抱いた

暖かい体温と少し早い鼓動が触れた肌を通して早紀にも伝わってくる

「里緒にはちゃんと話す」

渡瀬は早紀の小さく白い手を優しく握った

早紀はしばらく何も言わずに目をつぶっていた
美加の言葉が頭をよぎる

“暗黙のルールと篠山常務”

その目をゆっくり開くと渡瀬の頬に手をあてた

「お願いがあるの」

「なに?」

「まだ言わないでいてほしい」

「…どうして?」

渡瀬は意外な言葉に早紀の身体を向き合わせた

「言うなって、どうして?」

早紀の目を覗き込むと、その目の奥には強い意志が映りこんでいた

「しばらくのあいだ…
 せめて管理部の数字が落ち着くまで
 …お願い」

篠山里緒との交際が周知の事実であれば、
今このことが知れたら、
周りに…特に管理部の人間の目にはどう映るのか
自分の上司はただの女好きなどと陰口を叩かれ、舐められ、まとまらなくなるのでは?
せっかく改善してきた業績も暗転するかもしれない
そして、いつも自分の傍におき、見込んで全てを教えて込んできた信頼のおける部下に、
こんな形で裏切られたと知れば
篠山常務も黙ってるはずはない
今まで渡瀬の築いてきたものがなくなるかもしれない
早紀はそんな無茶をしてほしくなかった

渡瀬は黙りこんでいる早紀を胸に抱いた

「お前が何を心配してるか
 分かってる
 それでもお前を浮気相手”にして
 おきたくない」

「…あなたがそう思っていてくれ
 てる限り私は大丈夫
 …私のデスクからね、
 あなたが見えるの
 仕事をしてる横顔がよく見える
 不謹慎かもしれないけど
 仕事中にあなたの声が聞こえるのも
 嬉しいの
 だからお願い…
 もう少しこのままで」

笑顔を作る早紀に堪らず、身体にまわした腕に力が入る
周囲はこの恋を穏やかには見ない
体裁が悪すぎることも十分に分かっている
そして里緒や常務がすんなり納得するとも思えない
明るみに出れば自分か早紀、どちらか1人でも本社に残れたらまだマシなくらいだ
そして管理部の立て直しも、早く業績を安定させなければならない

公表した瞬間に失うかもしれないものが何かを分かった上で、耐えると言った
自分なんかよりよっぽど大人で強い女だと、渡瀬は改めて想った

「…そうか、わかった。
 でもキツくなったらすぐ言えよ」

「…はい」

早紀はニコリと笑い渡瀬の首元に腕を回した
心地いい温もりと、なめらかで白い華奢な身体を強く抱きしめた渡瀬は
心から愛しさを感じていた

「…お前をいつもそばにおいて
 おけたらいいのに」

渡瀬は本当に小さな小さな声でつぶやいた
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