密星-mitsuboshi-
翌朝、早紀は低い振動音で目が覚めた
(アラームのバイブ音?違う…
私のじゃない?)
起き上がり、音の出所を探ると
ベッドの横のコンセントに挿した充電器に繋がれた渡瀬のスマホが振動していた
アラームの割にはその音は長く続く
「課長、電話っ
電話きてますよっ」
隣で寝息を立てる渡瀬を揺すり起こすと、渡瀬は薄眼を開けて手探りで充電器から引き抜いた
そして画面を確認すると、
電話には出ずにそのまま元あった場所に戻した
「…電話、いいんですか??」
渡瀬の行動が少し引っかかった早紀は
わざとスマホを指差した
「…あぁ、大した内容じゃない」
渡瀬はそう言って早紀の腰元に抱きついた
「それより、よく眠れた?」
「はぃ、腕枕のおかげで
ぐっすりと♪」
「それはよかった」
甘えている渡瀬の髪を撫でていると
また先ほどと同じ音が聞こえ始めた
渡瀬はその着信に興味を示さずに早紀の膝枕に頭をつけたままだった
それでも振動音は鳴り続き
いい加減早紀も
「…出たらどうですか?
急用かもしれないし」
と促した
だが渡瀬は動かずにいた
「…急用じゃないから大丈夫」
「でも…こんなに長く」
「里緒だよ」
「え?」
「里緒からの電話」
早紀は、何度もコールする電話を急用じゃないと言い切る渡瀬を見て
さしずめモーニングコールといったところか、きっと毎朝かかってくるのだろうと察した
早紀は渡瀬の頭を膝にのせたまま手を伸ばし、スマホを取って画面を見るとやはりそこには
“篠山里緒”の文字が出ていた
そして、
「出てください」
早紀はそのまま渡瀬の顔の前にスマホを差し出した
「…急用じゃないからいいよ」
「これ、
毎日かかってくるんでしょ?
なのに出なかったら
私だったら不審に思うから
だから出てください」
早紀の強い意志に負けて渡瀬は折り返しかけ直した
渡瀬には強い態度を見せたが、
本当のところは渡瀬と里緒の会話など聞きたくはない
でも耐えると決めた以上、今はなるべく渡瀬にもいつもと変わらないようにしていてほしかった
コール音がしてすぐに女性の声が漏れてきた
早紀はその場から離れようとベッドから立ち上がろうとした
その時
渡瀬は早紀の腕を強く引きそのまま早紀の身体ごと自分の身体の真ん中に収めた
「なにをっ…」
渡瀬は驚いて顔を上げた早紀の口を自分の口で塞いだ
『-起きてるの?
何回もかけたのよ?』
渡瀬の耳に当てているスマホからは女性の声が漏れてきた
それは篠山里緒の声だった
渡瀬は里緒が話している間も早紀の唇を離さなかった
何も知らずに話し続ける里緒
まさか電話の向こうで自分の男が他の女とキスをしているとは夢にも思ってないだろう
軽い罪悪感とほんの少しの優越感が、早紀の体を駆け巡る
『ちょっと聞いてる?
…誰かいるの?』
その言葉が聞こえた瞬間、我に返った早紀は反射的に渡瀬を突き放した
「…あぁ聞こえてる
寝不足で眠かっただけだ
もう起きたから切る」
渡瀬はただ一点を見つめながら
通話を止めスマホをベッド脇に放った
「…早紀、おいで」
差し出された手を取ると、
先ほど感じていた罪悪感は消えてなくなり、優越感だけ溢れ出していく
「電話中にあんなことするなんて
気づかれたら…」
「俺から離れようとしたから」
「離れるって…
電話だから」
早紀がいい終わる前に渡瀬は握っていた手を引き寄せその瞳を見つめた
「里緒に関することで
お前が遠慮しなくていい
本当に俺の傍にいるのは
お前だけでいい」
「…」
渡瀬の言葉は
早紀をお姫様に変える
差し出されるその手を取れば、
幸せに踊るお伽話のお姫様になれる
鐘がなるまでは、
優しく抱きしめてくれるこの腕を独占していたい
早紀は力いっぱい渡瀬に抱きついた