押しかけ社員になります!

「あの子が?」

…あ、親バカだが、見初められたものだと…勝手に思い込んでいた。それが…和夏が攻めた?

「はい。これは…言ってもいいのかどうか…。
……最初は、こんな私をからかっているのかと思いました。私にどれだけ思いがあるのか、レポートに切々と書いて提出して来るのです。それは、タイトルを変え、文章であったり、グラフであったりと、色々です。仕事の書類に忍ばせてです。
私からしたら、若い子のすることです、あまりに回数が多く…これは戯れかと叱った事もありました。いえ、叱ってばかりでした。…昔経験した離婚の事もあります。年齢を考えれば、私のようなおじさんに関わらない方がいい、そう思いました。立場上、煙たがられるような男です。何より、女性とのつき合いも、結婚も、無くていい、もう面倒臭いと思っていましたから」

「そこまで思っていて…では何故、和夏と」

「いい加減にしろと本気で叱っても、何度でも提出して来るんです。シュレッダーにかけろと冷たく言った事もあります。怒鳴っていましたね。私に関わって欲しく無かったので。それでも提出して来ました。そう言った意味では芯が強いと言うか、諦めない強靭な女性だと思いました。
娘さんは会社のお昼ご飯にお弁当を持参されているのですが、ご存知ですか?」

「いいえ、そんな事までは、一緒に居ませんから知りません」

「私の日常を補佐するという内容のレポートを貰った事がありました。頼んだ後だったかな…。
私の弁当を作ってくれないかと頼みました」

「気がないのに娘を試したのですか?」

「それは…矛盾しているようですが、全く無かったかと言えば、どこかで少しは本気で補佐する気持ちはあるのか、と思っていたのかも知れません。でも試すというような、そこまでの気持ちは無かったと思います。
私は外食ばかりで…美味しそうなお弁当をいつも食べていましたから。私も食べてみたいと、ただ、そう思いました」

「それであの子は…」

「はい。何も聞き返さず作って来てくれていました。多分、何でなのか理由もはっきり解らず、疑問を持ちながらだったと思います。それからは約束通り、毎週水曜日、欠かさず作ってくれています。
二人のお菜を微妙に違えて作るんです。私と同じ物に見えないようにと。そうしてくれと言った訳ではありません。…人の目に触れたらと気遣って、そんな心遣いもしてくれます。
仕事を一緒にしていての人となりですが、娘さんは堅実で信頼出来る人です。私の方が…いつの間にか娘さんに惹かれていました。…とても強く。
恥ずかしげも無く言えば、真っ直ぐで諦めない思いに、私が落とされました。
ただ、一番気になるところでしょうが、私が創業者の孫だと言う事を、娘さんは知りませんでした」
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