押しかけ社員になります!

「さあ、部長も食べてください。午後の仕事の時間に差し支えますから」

「…解った。あ、椎茸解ったぞ。でも食べた。旨かった」

「それは良かったです。……ご希望なら、私が訴えてあげましょうか?セクハラで。そしたら部長に、いえ、もっと下まで格下げされるかもしれませんよ?…無駄でしょうけど」

部長だからどうせ無かった事になるでしょ?

「西野…」

「私だって…もっと会いたいです。けど部長が忙しいのは仕方ない事じゃないですか。仕事なんですから。
やっとです…次の週末は部長が比較的早く終われるみたいなので、お泊りできます」

…だって、こんなに急に取締役になるなんて思わなかった。いつかはって、解っていたけど…常務なんかになってしまったのは、部長のせいじゃない…。
…部長の御祖父様の会社なんだから。現状を愚痴ってみても仕方ない。


「珈琲入れましょうか」

「…ああ、有難う、頼む。今日も美味しかったよ」


「…はい、…どうぞ」

嬉しい。美味しかったといつも必ず言ってくれる。

「有難う。…西野も忙しそうじゃないか」

私はプライベートでだ。火曜はマナー講習、木曜は…中身は部長には内緒。

「火曜と木曜を潰したら月金は忙しい曜日だから、全然、時間が無くなっただろ?」

俺に会いたくないのか?西野。

「はい、それはそうですが」

今は仕方ない。今は解らないけど、この先、必要になった時の為。自分の気持ち次第なんだけど…。

「…今日も遅いのですか?」

「今日は予定が変わりそうなんだ。比較的、早いかも知れない」

「そうなんですか?…では、私、部屋で待ってます」

「…ん…?本当か?!」

「はい、本当です。朝早く帰れば大丈夫ですから。早くならなかったとしても、遅くなってもずっと待っています。少しでも…一緒に寝るくらいは出来ますから」

「西野…。よし、加藤に言って捲きで終わらせる」

たった一言。待っているというだけで、こんなに変わってしまうなんて。私も嬉しい。…いつも家に居たら、こんな嬉しそうな顔を見せてくれるって事かしら。それとも久し振りだから?

「待ってますね、部長…」

部長の唇を少し頂いた。決してさっきの仕返しではない。ストレートな部長の表現が可愛いらしかったからだ。

ん、んん!…西野?!

「ん…逆セクハラですね。あ、ごめんなさい部長。グロスが少し付いてしまいました」

人差し指で少しなぞって拭き取ったつもりだった。

…西野。

「唇、もっと綺麗に拭いておかないと、きらきらしてるって、加藤にからかわれてしまいますよ?…早く!もう加藤、帰って来てますよ?
では、私も時間が無いので戻りますね」

「西野…ぁ」

おい……。はぁ、全く…、やられたな。俺の心を鷲掴みにして消えるなんて。
…おっと、拭いておかなきゃな。…ティッシュ…ティッシュ…。
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