押しかけ社員になります!

私は部長が部長でなくなっても、部長と呼んでいる。これは愛称のようなモノだと思っている。本人はどう思っているのか知らないけれど。

何故名前で呼ばないのかは、…決して思い出して欲しく無いその瞬間に、昔シていた事を思い出して欲しくないから。
そして、思い出す事で、また人を好きになる事を止めてしまうのではないかと…私が恐れているだけの事。

吉城さんと呼んで、あの人とシた事、思い出して欲しくない。…吉城さんとは呼んでいなかったかも知れない。
私は呼べたとしても年下だからさん付けで呼ぶけれど、年上だったあの人は、吉城、と呼び捨てにしていたのではないだろうか。きっとそう。吉城、吉城って…。呼ばれて嬉しくて堪らなかっただろうと想像してしまう…。
私はどんどん臆病になって来ている。
辛い事があって別れたとはいえ、その人は部長が自分から惹かれて夢中になった人…。
…最低だ。勝手な勘繰りをして嫉妬に駆られ、勝手に不安を増幅している。
だから、嫌、…好きって、恐い。…いつまでこんな不安を繰り返すのだろう。

私達はまだ結婚はしていない。結婚…。婚姻は離婚届を出す事で解消される。
私達の結婚は、誓約書を書く事で結婚と同等にしようとしている。将来的にだけれど。
この状態を結婚というのならばだけど。
事実婚に近いかも知れないが、お互い独立したまま基本は何も変わらない。
変わらないけど、ある日を境に、私は青柳吉城の奥さんと認識されるようになるのだろう。
私達がそう決めた日を夫婦の始まりと見なすなら、その日から奥さんだ。

木曜日は、将来、秘書検定を受けられるように、学校に通っている。部長は知らない。
何かの習い事の日だと思っているだろう。

加藤を秘書に引き上げた時は驚いた。全くの経験も何も無いのに。常務になる事で、自分の目が届かなくなるくらいなら、側に加藤を就けておいた方が安心だと。
冗談かと思った。
そんなに加藤と同じ部署だと心配?まさか本気で移動させるなんて。
無人島で二人になるなんて絶対有り得ないのに。
そんな以前の事。無人島に行かなくても、加藤とは男女の関係になんてならないのに。
どんなに私が言ってあっても不安だったらしい。
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