押しかけ社員になります!
有難うございましたと見送られ、お店を後にした。
…はぁ。
「疲れたか?西野」
「はい。目茶苦茶、緊張しました。でも、あの、部長。色々と私の為に気を遣って頂きました…」
「ああ、あれはあの店のやり方だろ」
「え」
「あー、予め聞かれたんだ。一緒に来られる方のお名前はって。ほら、イニシャルを入れたりする場合とかもあるだろ?
予め聞いておけば、後の作業がスマートだ。いちいち確認して改めて聞かないで済む。入れる場合はな。
あー、もし一緒に来店した相手とは違う相手のを買ったりしたら、まずい事になるだろうなぁ。
ま、そういう時には店員は空気を読むだろうがな。
店には店の都合…理由をつけて聞くのさ。これはあの店のやり方だ、うん」
部長…、饒舌過ぎます。名前を呼ぶ事は部長が手配したのではないかしら、…と思ってしまう。
では、プライスカードはお店が配慮しての事なのかな。どちらにしても、今まで縁の無かったお店の対応は、どんな事でも私には解らない。通常の事を特別だと思った…。それならそれで…無知も幸せの一つかも。
「それより本当に良かったのか?俺が選んだ指輪で」
「はい。良かったから決めました。凄く気に入ってます。有難うございます、部長」
運転中だ。体を伸ばして部長の頬に掠るくらいのキスをした。
「……西野…。…危ない。…危ないじゃないか…」
「フフ、ごめんなさい。私もですけど、部長も、普段もですけど、咄嗟に出る名前は西野ですね」
「あ、ああ、そうだな。俺も…癖だな。つい、西野ー!って呼び付けていた癖だ。元はと言えば西野のせいだ。あ。人の事は言えないな。だけど、西野。あ、…。んん。
キスは頬だけじゃ足りないな…」
「え」
ん。
「せめてこのくらいして貰わないと」
顔を寄せ唇に触れるだけのキスをしてそう言うと、頭の後ろを掴まれた。グッと引き寄せられ唇を奪われた。
ん、…んん…。
「…更に…このくらいは頂かないとな」
ん、ふ…、ん。世の中のモノは、全て部長の味方なんじゃないかと思った。信号は中々青にならなかった。