モテ系同期と偽装恋愛!?
「はれ、見たことある顔らな……どちらさんれしたっけ?」
「ご冗談を。さっきまで一緒に飲んでいたじゃないですか」
「あ〜、遼太郎か〜」
「遼介です。大丈夫ですか? トイレ、ご一緒します」
呂律も回っていなし、記憶に混乱もみられる。
ふらふらと真っすぐに立っていられない副工場長を心配し、横山くんが背中に手を添えて、一緒に男子トイレに入ろうとしていた。
私は両拳を握りしめると、カツカツと歩き出す。
トイレに彼の背中が消える前のすれ違いざまに、もう一度ハッキリ否定の言葉を口にしておいた。
「勘違いして私を守ろうとしてくれたようだけど、余計なお世話だから」
この飲み会で横山くんが終始、場を盛り上げ続けてくれたため、男性たちの意識が私に向かず楽だった。
花火という口実で長時間抜け出す機会も与えてくれて、感謝もしていた。
しかし彼の一連の言動の裏に、私の男性恐怖症に気づいて守ろうという意思が働いていたのであれば、ありがたくない。
私としては、素顔を見られたくないのだから。
横山くんから返事は返ってこなかった。
というより、へべれけの副工場長が転びそうになって慌てている。
まだごまかせる……。
残り時間、横山くんの助けがなくても平然としていられたなら、きっと勘違いだったという方向へ持っていけるはず……。
どうしても正体がバレたくない私はそう言い聞かせて、決意を新たにする。
スナック葵のドアを開けて中に入り、「前すみません」と狭い隙間を通って、自ら男性たちの真ん中の席に座った。