モテ系同期と偽装恋愛!?

さっきからカラオケを独占している人がいた。

去年もマイクを離さなかった覚えのあるその人も、さすがに数曲連続して歌うと喉が疲れたようで、席に戻ってきて代わりに歌ってくれと、横山くんに声をかけていた。

促されて立ち上がり、横山くんが店の端のカラオケセットの前に立つ。

彼がリモコンを操作すると数年前に流行った男性デュオの曲が流れ、綺麗なメロディーに乗って、しっとりと色のある声で歌い出した。

すごい上手……。

この曲は好きで、数年前の流行った時にはダウンロードしてよく聴いていたけれど、横山くんの声で聴く方が好きかもしれない。

つい聴き入ってしまいそうな歌声だが、そうなれないのは副工場長の右手のスキンシップが絶え間なく続いているからだ。

左腕を揉むように撫でられて、泣いて逃げ出したい気持ちと葛藤していた。

酔いの回った虚ろな目が私の胸元に向いていて、もし胸を触られたらと危ぶむ思いに、震えは収まりそうもない。

平気だということを横山くんに示そうとしたけれど、自ら飛び込んだ生き地獄に後悔する気持ちが芽生えていた。

やっぱり、無理なことはやめておけばよかった……。
22時まで後24分……お願いだから早く終わって……。

嫌な汗が背中を伝って流れていた。

苦しくて息が上手く吸えなくなっている。

もうダメかもしれないと限界が見え始めたとき、副工場長が「葵ママ〜」と甘えた声で私を呼んで肩を抱き寄せてきた。

ママさんに間違えられている……。

長年スナックを経営しているママさんなら、酔った客に肩を抱かれても上手くかわすことができるだろう。

でも私には無理。
そんなスキルは持ち合わせていない上に、心はパニックに落とされてしまう。

相手は大切な取引先のお偉いさんで、失礼があってはいけないのに、抱え込まれた恐怖に悲鳴を上げそうになった。

しかし、私が叫ぶ前に状況が変化する。

なぜか急にカラオケのメロディーがプツリと途絶え、マイクを通した横山くんの低い声だけが店内に大きく響いた。

「紗姫に触らないでもらえますか」

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