それは秘密です
言葉の途中で歩き出す。


「ロッカールームで見せるから待っててって言われてたのに、すっかり忘れてたよ。いっけない。ちょっと行って来るね」
「あ、ああ…」


早口でまくし立てつつすでに踵を返していた私は、戸惑ったような六島君の返答を背中で聞きながら足早に出入口に向かい、廊下へと出た。

……今のはちょっとわざとらしかったかな…。

ロッカールームを目指しながら考える。

なにしろセリフが棒読みにもほどがあったし。

学芸会なんかで強引に役を割り振られてしまった時は当然のことながら、国語の朗読の時間でさえ、私にとっては尋常じゃなく苦痛で恐怖のイベントだった。

本心ではないこと、偽りの言葉を、さも真実であるかのように口にするというのがどうにもこうにも苦手だったのだ。

教師には必ず「元気ないよー。抑揚をつけて。もっと感情を込めて!」と熱く指導され、ますます萎縮してしまうという悪循環に陥ってしまって。

思い返す度に羞恥心が沸き起こり、同時に胃がキリキリと痛み出す。

しかも今回自らその寒々しい状況を作り上げてしまった訳で。

しかし、どれだけ猿芝居っぷりを晒す結果になったとしても、ああいって逃げるしか方法はなかったのだ。

だって、どんな顔をして六島君と接したらいいのか、皆目見当がつかないんだもん。
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