それは秘密です
今の話の流れだと、加東さんは個人が任意で入る生命保険の控除の為の書類を添付し忘れていて、事前に六島君がその件で社内メールを送っていたのだろう。

必ず電車で一緒になるとは限らないみたいだし、業務に関する事なのだからなるべく社外では口にしない方が良い。

そして加東さんは手が空いたこのタイミングで当該書類を持ってここを訪れた、と。


「もう、アパートのテーブルの上、色んなものが重なりあっててカオスな状態になっててさ。何とか見つけ出したよ」
「……お疲れ様です」


微かに笑いを含んだ声音でそう労いつつ、六島君は封筒を開けて中身を取り出し、素早く視線を走らせた。


「…はい、確かに。お預かりします」
「遅くなっちゃって悪かったね」
「いえ。まだ期限内ですので」
「じゃ、あとはよろしく」


そこで加東さんは六島君の左肩にポン、と右手を置いた。

その瞬間。

六島君はピクリと体を震わせ、何とも表現しがたい表情を浮かべた。

他にも二人のやり取りをこっそり眺めていた人はいただろうけど、位置的に六島君の顔まで確認できるのは私だけだし、加東さんにロックオン状態で、六島君のその小さなリアクションには気付かなかっただろう。

だけど私は気が付いた。

いや、私だからこそ、気付いてしまったのだ。

その後六島君は、来た時同様、風のように去って行く加東さんの後ろ姿をしばし見つめていた。
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