それは秘密です
そこで加東さんは最大限に目を見開いた。

初めて見せた本音が丸分かりの無防備な表情だった。


「失礼します」


そんな彼の傍らを素早く通り過ぎ、一度も振り向くことなく、私は公園を後にした。

妙な達成感、充実感に浸りながら家路を辿る。

しかしその高揚感が持続したのはほんの僅かな時間で。

アパートに帰り着き、夕飯を食べてお風呂に入って、と動き回っているうちにまたもやテンションが下降線を描き始めた。

だって、気がかりだった断りの返事を無事にできたからといって、六島君があの人を好きだという事実は何ら変わらない訳で…。

振り出しに戻った思考を抱え、悶々としながら一夜を過ごし、当然のごとく寝不足のまま、絶不調の体に鞭打って、どうにかこうにか出勤した。

そしてぐったりしながらホールでエレベーターを待っていたのだけど…。


「あ、佐藤」


……ああ、神様、なんてご無体な…。


「おはよ。上まで一緒に行こうぜ」


何故にこのタイミングで六島君と鉢合わせさせるのですか?

しかも普段だったら朝のこの時間帯、このスペースには常時複数人の人がエレベーター待ちで待機しているというのに、今日に限って狙ったように二人きり。

しかし今さら逃げる訳にもいかず。

にこやかにあれやこれやと話しかけて来る彼と共に到着した箱に乗り込んだ。
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