それでも僕らは恋と呼ぶ。
「月が綺麗だね」
何回もきいたことあるその言葉を、姉がぽろっと零す。
その言葉を、佐野の口から最近よく聞いている。
佐野の横で見たとき同様、月は綺麗なままだった。
「そういえば、夏目漱石の言葉にあるよね? 月が綺麗だねって」
たしかそんな言葉あったなとぼぅっと考えた。
たしか”I love you”を夏目漱石が訳したらそうなるみたいな言葉でなかったであろうか。
なら月が綺麗だって、好きって言ってるのと同じってことか?
不意に、佐野が最近よく月が綺麗だと言っていることが思い浮かぶ。
そして脳内で勝手にそれを好きだと変換してしまって、オレは顔を左右に振った。
何考えてるんだ、オレは。
別にそんな意識して言う奴なんていないだろ。
姉ちゃんと同じように、ただの感想として言う奴のほうが多いだろ。
佐野もそうだ。
頭に佐野の横顔が浮かぶ。
月の光に照らされた佐野の横顔。
暗い中で、白い肌がぼぅっと浮かび上がっていて、月が綺麗だと唇が動いてそれを紡ぐ。
妙に色っぽくなるのは、オレの記憶違いなのかなんなのか。