手に入れる女

「いえいえ。こっちも、多分、今晩、仕事場で一晩過ごすことになりそうで…、暗い気持ちになってたんです。
 そしたら、ひょっと小泉さんの『自分席』の話を思い出して、僕もそこに座って元気もらおうかな、なんて思ってね」 

明るく笑いながら言う。
今までの事は全て忘れてしまったんだろうか? 優香は全く屈託がない佐藤の様子に少し戸惑っていた。

「仕事でお疲れなのに、その余裕、うらやましいです。私なんてすぐげっそり、ゾンビみたいになっちゃって、機嫌も悪くなっちゃうのに」
「若いんだからそんなこと言わない。そんな時はチーズケーキ食べて乗りきるんじゃないんですか」

佐藤の方からチーズケーキの話をふってきたので、優香の戸惑いはさらに広がった。

「じゃ、今度死にそうになってるときには、差し入れしてください」
「あれ、小泉さんが作ってくれるって話じゃなかったっけ?」

思わず佐藤の顔を見返すと、明らかに優香をからかうような顔をしている。

ーーチーズケーキを食べてくれるの? それとも、また前みたいに拒否するの?

佐藤のあまりにも無防備なセリフに、佐藤の本心がつかめず優香はイライラする。
自分の気持ちを弄んでからかっているのだろうか。
優香は憮然とした顔になった。

「……怒ってますね」

佐藤はいかにもおかしそうに笑った。

「怒ってますよ……だって、涼しい顔で私のことをからかってひどいです」
「だって、あなたは、……本当に、呆れるぐらい強情で……素直で、こんなにからかいがいのある人、いませんから」

優香は佐藤の言い草にさすがにむうぅっとした。
しかし、佐藤は全然動じていない。むしろ、優香とのこの際どいやり取りを楽しんでいる風にさえ見えた。

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