手に入れる女

「じゃあ、今度こそ、絶対にチーズケーキ食べて下さいよ?」
「敵いませんね、小泉さんには。いいですよ、差し入れてくれたら喜んで食べますよ」

まるで何もこだわってないかのように、さらりと返事をする。
この変わりようはどういうことだろう。
佐藤の罠だろうか? 散々期待させといて、ガッカリさせるつもりなのか?

それとも……本当に、優香のことなどみじんも意識していない、ということなのか?

いいように翻弄されているのが悔しくなって、優香は反撃に出た。

「でも、私も仕事が忙しいんでいつ作れるか分かりませんよ。佐藤さんと違って、洗濯も掃除も自分でしなくちゃいけないですし」

暗に美智子のことを言及して嫌味を言ったつもりだった。
しかし、開き直っているらしい佐藤は、全く動じない。

「そうは言っても、一人暮らしは楽しいじゃない。ウチの息子も最近一人暮らし始めたけど、楽しいみたいだよ」

急に圭太のことに言及して優香はドキリとした。
圭太とのことを、佐藤が知っているはずはない、と言い聞かせながら、優香は話を継いだ。

「佐藤さん、息子さんがいたんだ」
「社会人3年目。家を出て行くと全然寄り付かないけどね」

「佐藤さんの息子さんならモテそう」
「小泉さんみたいな素敵な人に会えるといいんですけどね」

また、そうやってさらっと言うところが小憎らしい……
そういう『素敵な』人にぜんぜんなびかない佐藤さんには、もっと素敵な人がいるってことかしら?

「佐藤さんの奥様には全然かないませんけどね。息子さんも理想が高くなっちゃって大変なんじゃないですか?」
「ありがとう。でもそれはちょっと褒め過ぎですよ」

何を言っても軽くかわされて、優香は一人相撲でもとっているような、白けた気分になってきた。
むうっとした顔を隠しもしないで不機嫌な声を上げる。

「佐藤さん、あたし、今、嫌みを言ったつもりなんですよ。奥さん、奥さん、って、あたしのことはちっとも気にしてくれないから」

佐藤は、にっこり笑って答えた。

「分かってますよ。だから、さっきから言ってるじゃないですか。小泉さんをからかってるんですよ」
「は!? え!?」

優香は驚いて声を失った。

「そんな顔もするんですね。小泉さんは、本当に表情がクルクル変わりますね。すごく素敵ですよ」 

佐藤は余裕たっぷりに優香を見つめてコーヒーを美味しそうに飲んでいた。
優香は憮然として言い放った。

「私、そろそろ戻りますね」

それだけ言うと、さっさと席を立った。

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