手に入れる女
「一息入れに来たんですか?」
「そんなところですかね。数日前にトラブルが発生して職場内が殺気立ってるんで、外の空気を吸いたくなって。
現実逃避かなー。小泉さんの顔が見えたからつい声をかけてしまったけど、仕事の邪魔しちゃいましたか?」
佐藤はリラックスした様子でコーヒーを啜りながら、軽く世間話をする。
佐藤が内心どう思っているかよく分からなかったが……二人の間に妙な緊張感はなく、ただ、ゆったりと会話を楽しむ心地よい空気が流れているだけだった。
「佐藤さんでも殺気立つことってあるんですねぇ。想像がつかない。あたしなんかしょっちゅう怒ってますけど」
「どうして」
「もう、それはもう、色々。今だって、契約の書類を見てたんですけど、突っ込みどころが多くて確認しながらキーっとなってました。
この部下、私の足を引っ張ってるのかな、と勘ぐりたくなりますよ」
優香は本橋への不満を隠そうともしなかった。
本橋とは何となくソリが合わなくて、怒るとふてくされるし、見逃すといい気になるし、で優香にとっては面倒な部下だった。
いつでも全力でぶつかっていそうな優香らしい言い草に、佐藤は、思わずクスリとする。
言葉を挟む事なくただただ優香に見惚れている佐藤に気付くわけでもなく、優香は情熱的に話を続けた。
「ヘンな契約にしちゃったら次から仕事もらえないのに、なんか危機感なくてイライラしてます」
「小泉さんも大変なんだ」
「そうですよ。…あら、一息入れにきたのに、余計イライラするような話を聞かせちゃってますね、すいません」
優香は、急に我に返ると、小さく笑って、ぺこんと頭を下げた。