手に入れる女
その夜、佐藤はいつもの時間にいつものように帰宅した。
それは、まるで何事もなかったような自然な振る舞いで、ただいま、という声もいつも通りだ。
夕べの無断外泊など、どこかに置き忘れて来たかのようなさりげない態度だった。
佐藤は案外神経が図太いのかもしれない。
美智子は玄関先で佐藤の声が聞こえるやいなやキッチンから駆け込んで来た。
佐藤の顔を見ると急に脱力したように、安心した顔で佐藤に抱きつく。
すこしやつれた顔で笑顔を見せる美智子を見たとき、昨夜の出来事が夢ではなかったことをはっきりと思い知らされたのだった。
美智子は、両腕でぎゅうっと佐藤を抱きしめた。
佐藤の胸に耳をあてて目をつぶって、心臓の音でも聞いているのか。ほっとしたような穏やかな顔になった。
「もう……帰れないなら連絡ぐらい下さいな、のりさん。警察に行って恥をかくところだったじゃない」
美智子は、少し口を尖らせて、ほっぺたをぷっと膨らませた。
おっとり拗ねる様子が可愛かった。
無邪気な態度が意外と言えば意外であったし、「らしい」と言えば「らしい」という気もした。
「とにかく無事で良かった。どこかけがしたりしてない? お腹すいてる?」
美智子は、佐藤の鞄と上着を受け取りながら話を続ける。
昨晩のことに何も触れずに、いつものようにたわいのない世間話を繰り広げる。朗らかに振る舞っている美智子に返って重苦しさを感じるのだが、佐藤は、それは自分の罪悪感のせいだろうと思った。
罪悪感? 自分は罪悪感を感じているんだろうか?