手に入れる女

確かに自分は妻を裏切って他の女と寝た。もちろんそれは世の道徳に反する許されない行為だ。

頭では理解できるものの、悪い事をした、という実感はそれほどわいて来ていなかった。むしろ束の間の夢を見たような、そんな気持ちで、自分の身体を借りた他の誰かがやったのではないか、というような気さえしていた。

今考えてみても、優香に連れられて彼女のマンションで一晩過ごした事が、自分の意志だったのかどうかはっきりしない気さえする。どこか他人事のような気分が抜けなかった。

「ご飯食べる?」

佐藤が、着替えてリビングに降りてきた時、美智子は聞いた。毎日のルーティーンそのものだ。

うん、という佐藤の返事を聞いて、いそいそと支度をする様子もいつもと変わりがない。
美智子が、食事をする佐藤の隣りに座って軽い雑談をするのも、日課通りだ。その日に美智子が遭遇したスーパーでの親子の話などを遠くに聞きながら、佐藤は不思議な気持ちになった。

「美智子、……昨夜、オレが誰とどこで何してたか聞かないの?」

美智子が答えるまでにはしばらく間があった。

「のりさんが話したいなら聞くけど?」
「う……ん、そう言われたら、どっちかっていうと話したくない」
「じゃあ、今度気が向いたら教えて。とにかく無事に帰って来たんだから」

美智子は一体何を考えているんだろう。
佐藤はみそ汁をすすりながら考えていた。





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