手に入れる女

わざと露悪的な言い方をした。
圭太の顔はいっそうぎこちなくなったし、聡子は、ますます意地の悪い笑みを浮かべた。

「ふーん。だからあせって結婚したがってるんだ。32だもんねー。
 お兄ちゃんもへんなのに捕まっちゃったんじゃなーい」

にやにやして優香を挑発しているつもりになっている。

ーーこんなくだらない嫌味で私を見下せると思ってるなら、私もずいぶんなめられたものだわ……

優香が一番効果的な反撃は何かと考えていた時、圭太と美智子が同時に「聡子!」と叫んだ。
美智子が申し訳なさそうに優香に謝る。

「ごめんなさいね、小泉さん。聡子がちょっと感情的になっちゃってるみたいで。
 いきなり婚約者を連れて来て動揺してるみたいなのよ、許して」
「だって、こーんな年上の人だなんて思わなかったんだもん。七つも上なんて、オバサンじゃない」

聡子は、調子に乗ってますます失礼な事を言う。

圭太がさっきよりも大きな声で「聡子!」と叫んだ。
その後、佐藤がゆっくりと口を開いた。

「聡子、お兄ちゃんの婚約者相手にそんな口の聞き方しない。圭太が連れて来た人なんだからさ。
 聡子だって、自分の婚約者をばかにされたら気分が悪いだろう?」

聡子の方をむいて、彼女の聞き慣れた、穏やかな、よく通る声でゆっくり諭すように言った。
けれども、聡子をたしなめる佐藤の顔は、優香の知っている佐藤ではなく、父親のそれだ。

「小泉さん、失礼しました」

佐藤は優香に向かって申し訳なさそうに謝った。
佐藤の、大人な礼儀正しい対応は、少しも取り乱したところがなく、まさに理想の父親を演じていた。

ーーああ、家庭ではこんな顔をしてるんだ……

こんな時なのに、優香の心臓はざわついた。
こんな顔で美智子と食卓に向かい、笑い合っているのだ。
胸がしめつけられる。

出来る事なら佐藤の腕をとってこの場から逃げ出したい。そして二人でどこか遠くへ行ってしまうのだ。
……一瞬、そんな、バカな妄想をして、優香はそんな自分を恥じた。

佐藤は聡子の方を向いて謝るように促した。
聡子は、面白くなさそうな顔をしていたものの、素直に優香に謝った。

「優香さん、ごめんなさい。失礼なことを言いました」

きちんとした謝罪だったので、優香は逆に驚いた。

「聡子ちゃんて…、お兄ちゃんっ子かと思ってたら、お父さんっ子なんだ~。可愛い、パパの言う事なら何でも聞くんだ」

不謹慎なことに優香は急に聡子に親しみが湧いた。

ーーこのコトメちゃん、ファザコンなんだ。好みのタイプは私と一緒なんじゃない。

聡子はぶすっとした顔で、照れもせずに言い返した。

「そうよ、自慢のパパだもん。それに、優香さんなんて、そもそもお兄ちゃんをとった宿敵じゃない」

聡子のその言い草からは、紛れもなく家族に対する愛情が見て取れた。彼女が今まで幸せな家庭で育って来た事がよくわかる。
優香は聡子にとって平和で幸福な家族に突然舞い込んで来た異分子であった。

「何、すでに小姑根性丸出し!? 聡子、やめてくれよ……」

すかさず圭太がおどけた感じで言ったから、一同、和やかに笑う事ができた。
圭太は明らかに安堵した表情だ。圭太のこういう気遣いを優香は嫌いではない。




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