手に入れる女
佐藤が出て行ってしまうと、美智子はリビングのカウチにへたり込んだ。
がらんとした部屋に一人座っていると、楽しかった25年の生活のあれこれが思い出されて、自然と涙が込み上げて来た。
佐藤の側にいると、美智子はいつでも安心できた。
振り向いて微笑むと佐藤はいつもそこにいた。腕を伸ばせばいつだって佐藤に届いた。
悲しい時にはやさしく抱きしめてくれたし、嬉しい時には一緒に喜んでくれた。
美智子は佐藤が大好きだった。今までずっと精一杯愛してきたつもりだ。
「どうしてパパを許せるの?」
ふいに背後から鋭い声がした。
聡子だ。
美智子は聡子の言葉を反芻した。
ーー私は、のりさんを許しているのだろうか……?
もっと、未練がましく泣き叫んで、すがりつけば良かったのだろうか?
そうすれば以前のようになんの屈託もない幸福な家庭が続いたのだろうか?
……そうではない、という気がしていた。
美智子は、あの時……、佐藤が朝帰りしたあの朝、自分はいづれこういう結果になるということを直感したのではなかろうか。
だから、あの時、佐藤を問い詰めることができなかった。何が起きたか知ってしまうのが怖かった。
多分、佐藤は聞けば全て包み隠さず正直に話しただろう、という気がする。
隠そうともしない佐藤に、佐藤の彼女に対する誠実さを見たような気がして、自分は捨てられるだろうと思ったのだ。
佐藤は正直な男で、彼女や美智子、そして自分自身をごまかしたりするようなことはしないことを、美智子は誰よりもよく知っている。
多分、不倫という状態は、佐藤にとっても心苦しかったに違いない。だから、佐藤はああいう行動に出たのだ。
そして、美智子は佐藤のそんな気質を愛していた。