手に入れる女
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佐藤は実にさりげなく優香の家にやってきた。
特に嬉しそうにするわけでもなく、かといってコソコソとやってくるわけでもなかった。
優香が思うに―—、佐藤の家へ帰るのと全く同じような態度だったのではなかろうか。
「こんにちは。入ってもいい?」
優香は、軽く挨拶しながら玄関の中に入って来た佐藤の手をとって、中へ連れて行った。
佐藤はひょいと言った。
「ウチを出て来たから、これからここで一緒に住んでもいいかな」
展開の早さに優香は驚いてすぐには返事ができなかった。佐藤は優香が何も言わないので、気を使ってすぐに付け足した。
「あ、別のところに住んだ方がいいのかな?」
「え……と、いや……もちろんいいけど……あの、奥さんとかどうしたの?」
優香はおっかなびっくり訊いた。
あの後も先の話など一切出なかった。
二人で他愛もない話をしたり、抱き合ったり、優香の仕事の話や、子どもの時の話とかそういうことしか離さなかった。
それでもその時は、切羽詰まった逢瀬ではなくて、心地よい楽しい時間だったということだけだ。
初めて会話をしたときのような、ゆったりとした時間を過ごして……
佐藤が最後にしたいと思ったのかなと感じた。
最後に全てをバラして、優香との関係を全て絶ってしまおうとしていたのか、と思ったのだった。
こうなった以上、圭太と関係が続けられるはずもなかったし、
佐藤だって……あれほど家庭を大事にしていたのだから。
その後何の連絡もなく、いきなりやってきたのである。
しかも、一緒に住みたい、と言って。
佐藤の言葉は淡々としたものだった。
「離婚することになったよ。細かいことはこれから決めることになると思うけど、とりあえず、結婚を継続するつもりはないから、家を出るね、ってことになった」
優香の方があまりの冷静さに面食らってしまう。
「何か……旅行にでも行くような話し方だね……」
「そう?」
佐藤は飄々としてつかみどころがなかった。
優香の家に転がり込んで来て、興奮するわけでもなく、かと言って後ろめたそうにしているわけでもなく、しごく当然だと言う感じで極めて自然に振る舞っている。