手に入れる女

決まってしまえば後は早かった。
佐藤は身の回りのものを少しまとめただけで、身一つで出て行くという。
出て行く時に、鍵をきちんと美智子に渡したのも佐藤らしいことだった。

「当面の生活は大丈夫だと思うけど、困ったことがあったらすぐに連絡してくれる?
 携帯でも会社でも」
「……大丈夫よ」

「これからもしばらく、諸手続きがあるから、会ったりしなくちゃいけないけど……
 煩わしいんだったら、弁護士でも立ててくれれば」
「そんな、水臭いこと言わないで」

そう言ったら、佐藤は少しだけ笑った。

「じゃ、今までいろいろありがとうございました」

佐藤は最後にお礼を言って、握手をして別れた。


***


美智子にとっては久しぶりの新宿だった。

今日は気分転換の買い物だったから、普段あまり行かないところで買い物をしたかった。

新宿の人波は、他の街よりも動きがせわしない気がする。
人々は、落ち着きなくあっちに行ったりこっちに行ったりしているようだった。
いつもざわついている雑然としたこの街に降り立つと、宙に浮いたような不思議な気持ちになった。

甲州街道を渡る信号を待ちながら、人の多さに我を失いそうになった。
信号が赤の間にみるみる人だかりが出来ていく。ふと前を見ると、道の向こう側に優香が立っていた。


ほぼ同時に優香も美智子に気付いたようだった。


信号が青に変わって人が動き出した。
美智子もその波に乗って歩き出した。

美智子は優香から視線を外してまっすぐ前を向いて歩いた。
優香とすれ違う時に、前を向いたまま優香を見る事もなく小さな声でひとこと言った。


「ドロボー猫」



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