手に入れる女
次の日、優香は準備万端、完璧に整えて出勤した。
大体が優香はウジウジ悩むのは性に合わない。
こう、と決めたらそれに向かって突き進むのにためらいはない。会いたい気持ちを抑える気はさらさらなかった。
優香は朝の忙しい時間が終わってほっと一息つくころ、佐藤のケータイにメッセージを送った。
タイトル:チーズケーキ
本文:早速チーズケーキを焼いてきました。
コーヒーと一緒にどうですか。
あまりに唐突に送られて来たメッセージを佐藤は持て余している。
これは明らかに自分を誘って来ている……
偶然会うだけだから、大丈夫なはずだ、なんて気を落ち着つけたのが夕べ。
昨日の今日でこの有り様だ。
さすがに動揺して、佐藤はすぐ返信できなかった。
メッセージを読みながら、昨日コーヒーショップで話をした時の優香の顔を思い出す。
優香はものすごくチーズケーキが好きなのだろう。
凝り性でのめり込みそうなな感じのする彼女のことだ、「最高に」美味しいチーズケーキとかいうのを作り出すために、あれやこれや試行錯誤したに違いない。
レシピを自慢していた時の彼女の茶目っ気たっぷりの誇らしげな顔を思い出すと、断りの返事はしずらかった。
何より、佐藤自身が、自作のチーズケーキを自慢する時の優香の顔を見たくてたまらなかった。彼女がどんな顔をしてチーズケーキを食べるのか、それも見てみたかった。
が、しかし、佐藤は誘いに乗る訳にもいかないことも承知していた。
山本が惚れてるんじゃないの、とあっさり言ってのけたぐらいだ。優香の好意は佐藤の勘違いではないはずだ。
昨晩の美智子の顔も脳裏をよぎる。美智子の悲しそうな顔を想像すると、これ以上の関わりは避けるべきであった。
突き進んだところで誰も得はしない。
タイトル:Re:チーズケーキ
本文:残念ですが、今日は会議につぐ会議で抜け出せそうもありません。