手に入れる女
「おまえ、ホントに小泉センセイの機嫌が良くても悪くてもグチをたれるなあ。」
本橋の同僚の田崎も呆れている。
田崎は、本橋が優香を大いに苦手にしているのを知っている。
田崎としても優香のことが気に食わないのは本橋と同じだったが、一目置かないわけにはいかなかった。
多分、今事務所で一番契約を取ってきているのが優香のはずだ。優香を他の事務所に追い出したりしたら、ダメージが大きいのは優香ではなく、事務所の方だろう。
うまくいけば、来年の春には東京事務所での最年少のパートナーが誕生するかもしれない、と田崎は秘かに予測していた。優香の上司は小山田をパートナーに推薦したいらしいが、数字を見れば、明らかに優香の方が上であった。
優香が本橋のところにやって来た。
「今日は、アーツさんと食事なの。本橋君も一緒に来れるわよね」
「わかりました。相手はどなたですか?」
「市川さんと田口さんが来る予定よ。あなたも何度か話をしているわよね? 会うのは初めて?」
「市川さんと田口さん、初めてです。何か言ってました?」
自分が提案した内容が、クライアントの意にちゃんと沿っているか、本橋は内心ではいつもドキドキである。
「多分、あの内容でいいだろうって。今ディグニティ・コスメティックと最後の詰めをしてるところ。メモ、そっちにいってるでしょ」
「来てます、来てます」
「そう、今日、会う前に目を通しといてね。無事にクローズするといいけど」
優香は朗らかにそう言って、自分の席へ戻って行った。
何もまずいところを指摘されなかった。優香の機嫌は相当いいようだ。
……本橋はゴキゲン指数を98に変えた。