その男、猛獣につき

ププッ――

 

見つめ合ったままの私たちを現実に引き戻させたのは、後方の車のクラクション。

信号がすっかり青に変わってしまっていたことに気付いていなかった。

 

「な、なに、急に変なこと言ってんだよ」


先生はぼやくように言いながら、進行方向に向き直り、車を急発進させる。

それは明らかに戸惑っている様子で、わたしも一緒になってますます動揺してしまう。

 

「すみません…」

 

私は、もう一度小さく呟いて謝ってみた。

 

先生は、もう謝るなと呟きながら、2人の間の空気を変えるようなトーンで口を開く。


「ら、来週は、車椅子バスケ一緒に行けないから、敦也が病院に迎えに来るように言っているから。今日みたいに絶対寝坊するなよ。俺が迎えに行くときなら寝坊してもいいんだけど…」



語尾がどんどん小さく呟くようになってしまった先生に私は笑ってしまう。
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