その男、猛獣につき
「そんなことは、どうでもいい。それよりその膝。」
先生が見つめる先の私の膝を見ると、さっきまで滲んでいるだけだった膝の傷から血が流れている。
「それに、こんなに濡れて、大丈夫か?」
さっき病院にいた時の雰囲気とは全く異なって、とにかく優しい。
それでも、昨日「忘れろ」と言われた相手だということが少し気まずい。
「大丈夫です」
私は、無理やり笑顔を作り答えてみたのだけれど……。
クシュンっ。
タイミングが良いのか、悪いのかくしゃみが出てしまう
「大丈夫じゃないだろう。とにかく乗れ。」
先生は私を無理やり助手席に乗せると、壊れた自転車はトランクに乗せた。
「行くぞ」
先生はそう言って、車のエンジンを掛ける。
先生は思い出したかのように後部座席に置いてあるタオルを取り、私の頭に乱雑にのせ、駐車場を出発した。
「あっ、ありがとうございます」
先生の匂いのするタオルで、濡れていた髪の毛を拭く。
拭きながら、ふと先生の車が病院とは反対方向に向かって走っている事に気付いた。