その男、猛獣につき

「そういえば、今日は用事があったんじゃ…」

「あっ、あぁ。そうだった気がする」

先生が気まずそうにしている様子をみて、また余計なことを言ってしまったと気付く。

 

「せ、先生、悩みあるんですか?」

あぁ、もう私の馬鹿!!!


話の話題を変えようとしたら、またもや余計なひと言を言ってしまった自分が嫌になってくる。

「何で?」

先生はドライヤーの手を止める。

 



「敦也さんが、先生が煙草吸う時は悩んでる時だって言ってたから」

「あぁ。」

「なんか、すみません」

「有田のせいじゃない。有田は実習のことだけ考えていればいい」


消え入りそうになった私の声を聞き逃さず、先生ははっきりという言葉を私にぶつけた。

 

私のせいじゃない、なんて嘘ばっかり。

 

先生の不器用な優しさに胸が苦しくて仕方ない。

「さぁ、乾いたぞ」


私の気持ちなんて気にも留めていないような先生は、そそくさとドライヤーを片付け始めていた。

 

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