その男、猛獣につき
「有田、ごめん。服のことすっかり忘れてた」

 

低くて、どこか色気のある声。

その声と同時に、2回程の軽いノックとともに襖が開かれる。

 

「せ、先生!!」

身をこわばらせていた私は、相手が先生ということで安心して、全身の力が抜けたような気分になる。

 

仕事の時のビシッと固めた髪型ではなく、少しパーマのかかった栗色のふんわりした髪型で、Tシャツに白いシャツを羽織り、少しロールアップしたジーンズといった完全にオフモードの格好。

 

やっぱり、格好いい。

 

思わず見惚れてしまった私を、知ってか知らずか先生は少し苦笑いのような表情を作る。

 

「それで、服は?」

「あっ、これです。」

さっき渡せずに後悔していた紙袋を、渡す。

先生は紙袋を少し開けて、中身を確認する。

そんな先生を見ながら、さっきまで渡す時の言葉を必死でイメージトレーニングしていたこともすっかり忘れてしまっていたことに気付き、激しい後悔が押し寄せてきた。

 

タイミング、逃しちゃったな。

 

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