その男、猛獣につき
こんな時、冷静さを取り戻さない方がよかったんじゃないかと思ったのは、自分の置かれている状況を把握した後のことだった。

 

私は先生の腕の中にすっぽりと収まった形になっていて、抱きしめられた状況にある。

 

先生の服の上から分かる、程良く筋肉の付いた胸板に額が当たっている。

先生の鼓動が、小刻みなリズムを刻んでいることが伝わると、私の鼓動までスピードを増し、共鳴しようとしている。

 

「せ、先生?…」

「今は何も喋るな」

 

小さく呟く先生は、私を抱きしめる腕に力を込める。

 

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