その男、猛獣につき
「聞こえてたんですか?」
私が驚いた声を出すと、先生は少し照れくさそうに視線をさまよわせる。
「まぁ…な」
ふいに2人の間に沈黙が流れる。
先生は何かを考えているかのようにしている。
「有田!!」
「ハイ!!」
何かを決心したように、2人の間の沈黙を打ち破る先生の声に、私はいつものように背筋を伸ばして返事をする。
「大人になりきれないなら、勘違いしてもらっていても構わない」
「はっ?!」
「だから、勘違いしたいなら、していい。」
素っ頓狂な声をあげた私に、先生はそれだけを言い捨てるかのように伝えると、クルリと背を向けて階段を軽やかに昇っていく。