その男、猛獣につき
「本当に、忘れ物ないよな?」

「うん、大丈夫…だと思います」



ジロリ、主税さんの蛇睨みは付き合ってからもあんまり変わらないけれど、私にはもう効き目はないみたいで、2人で見つめ合うと吹き出してしまう。


やっぱりまだ、敬語からの卒業には時間がかかるみたい。
それでもゆっくりゆっくりこれから時間をかけて慣れればいいと、昨日主税さんも言ってくれた。




日曜日、主税さんと8週間慣れ親しんだADL室を掃除して荷物をまとめる。

私がお姉ちゃんから借りた真っ赤なスーツケースに着替えを詰め込んでいると、主税さんがスーツケースを指さす。

「初日、俺の夢にこの真っ赤なスーツケースが出てきて、振り回されてたんだよ。これに」

そう言いながら、苦笑いする主税さん。

「ある意味、正夢になったみたいだ」

大きな右手で口元を隠しながら可笑しそうに呟き、付け加えた。


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