その男、猛獣につき
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タイムリミットの10分はとっくに過ぎて、私の準備は結局、不躾な前髪のせいで15分以上かかってしまった。
「有田、遅い」
冷たく言い放ちながらも、先生はわざわざロータリーまで車を廻してくれて、待っていてくれた事が私は嬉しかった。
「洗浄液の他に必要なものは?」
「えっと、シャンプーと……、ちょっとお菓子のストックを。」
「お、お菓子?!」
先生はすっとんきょうな声をあげる。
「夜中、レポートしてると無性におなか空くんですよ‼だから、あれです。と、糖分とらなきゃ‼」
先生のすっとんきょうな声に焦った私が言い訳すると、先生は我慢できずに吹き出した。
「面白い奴。」
誉められているのか、貶されているのか分からない。
けれど、助手席から見る先生の笑い顔はまるで少年のようで、気持ちを揺さぶられた。
それにいつもの《冷徹の興梠先生》とは、雰囲気もまるで別人みたいで、恐怖を感じることすら忘れてしまっていた。