その男、猛獣につき

突然、先生がテーブルに置いていたスマートフォンが震え始めた。


「ちょっとゴメン。」
そう言って、先生は目の前で鳴っている電話をとった。



「もしもし、あー、うん。いや、今、ラーメン食ってて、うん……。うん。」



彼女……かな?

先生、休みの日は忙しいって言ってたし。



少しだけ胸の辺りがヒリついているのを感じながらも、それに気づかないふりをして、私はラーメンを啜った。


「わかった。じゃあ、ラーメン食べ終わったら向かうから。後でな。」




私に視線を遣りながら、電話を切った先生は、

「すまん。」
と、少しだけ申し訳無さそうに小声で謝った。


「先生、今日はすみません。お忙しいのに買い物だけじゃなくて、お昼ご飯まで連れてきて頂いて……」


分かってる。
先生だって、忙しいんだ。
だから、先生との楽しい時間は、もうこれで終わり。



それでも終わりたくないと思うのは、きっと帰る場所が病院だからで、先生と一緒に居たい訳じゃ……



自分の心に言い聞かせながら、自分なりの強がりで、私の方から一方的に喋りだして頭を下げた。



本当はまだ一緒に居たい。


その気持ちには気づかないふりをして。


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