その男、猛獣につき

「いや、俺も急に誘って悪かったな。連絡先知らなかったから。有田は、病院に行けば居ることが分かっていたし。」


「いえ、先生がいなかったらきっと明日からもしばらくは眼鏡生活でした。本当に助かりました。」

改めてもう一度、深々と頭を下げる。



「そうだ。有田、ちょっとスマホ貸せ。」


何かを思い付いたように先生は私に、手を差し出す。

私が自分のスマホを差し出された先生の手に乗せると、先生は慣れた手つきで操作して私に返した。


「俺の番号、入れておいた。買い物とか、何か困ったことあったら連絡しろ。」

そう言われて、急いでスマホを操作して、アドレスを確認する。

そこにはしっかりと《興梠 主税》と登録されていた。



「俺も有田の番号登録したから。今度から出掛ける時は10分前に連絡するから準備終わらせて、玄関前に出てこいよ。」



番号交換しちゃったぁ。



ただ、それだけの事なのに、何故か胸が高鳴る。



いつもの淡々とした喋り方で、口角を少しだけあげる先生から、私は目が離せなかった。



「おい‼有田、そんなぼぉーっとしていると伸びるぞ。ラーメン。」


きっと先生も少しだけ照れ臭かったのだろう。

いつもの淡々とした喋り方で、先生は私の方のラーメンを指差した。


「先生も伸びちゃいますよ。ラーメン。」


私は負けじと悪戯な笑みを浮かべて言い返す。


「うるさい。 」

先生は必殺技の蛇睨みで私を冷たく睨みつけた。


いつもなら固まってしまうのに、私はそのやり取りがなんだか楽しくて、ついクスクス笑ってしまった。

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