その男、猛獣につき

「有田、レポートは順調か?」


ラーメン屋を出て、先生の車の助手席に乗り込んだ私への第一声は、実習のレポートのことだった。


カーナビを操作しながら、私の存在すら視界になんて入っていない。

 

わかってる。

先生と私は、バイザーと実習生。
それ以外何でもない。

 

今日はもう何回、そんなことを自分に言い聞かせているのか分からない。

それでも、そう言い聞かせるしかない私は、本当に今日はどうにかしている。

 

「昨日、頑張って終わらせました。…一応」

完璧に、とはいかないけれど、終わったのは事実だ。

「それなら、今日は暇だろ?」


えっ?!



そんな反応が、きっと顔に出ていたのだろう。


「それとも、彼氏と予定でもあるのか?」


どうせ、彼氏なんていませんよ。


ちょっと卑屈な顔すると、先生はまた意地悪な笑みを浮かべた。




「暇なら、もう少し付き合え」

「はい!!」


もう少し先生と一緒に居ることが出来る。

そのことが嬉しくて、私は満面の笑顔で頷いた。

 
< 52 / 328 >

この作品をシェア

pagetop