シークレットな関係
彼氏の家に初めて来た彼女の気持ちは、きっとこんな感じなんだろうな。
そうだ、高橋はそれを教えてくれている。
これはただの練習で、本当ではない。
何度も繰り返して自分に言い聞かせつつ、先導して奥に進む高橋の背中を追った。
リビングには窓がなくて少し薄暗いけれど、彼は電気をつけることなくソファを指差す。
「そこに座れよ」
そう言われてもどうにも落ち着かず、突っ立ったまま部屋の様子をきょろきょろと眺めてしまう。
キッチンはリビングにつながっておらず、そのせいか生活感が感じられない。
無駄なものが一切なくて、ソファとテレビがあるだけの殺風景な部屋。
かわいい天使のオブジェとか、外国旅行の土産にもらったへんてこな壁飾りとか、占いの本とか美容雑誌とか、いろいろごちゃごちゃと色彩豊かな私の部屋とは大違いだ。ついでに広さも。
普通窓があると思われる方向にはドアがあり、その先には寝室があると思える。
寝室・・・か。
先日ボディクリームを塗ってるとき頭に浮かんだシチュエーションがパッと蘇ってしまい、焦る。
まさか、ね・・・“仮”だもの・・・キスまでだよね・・・。
「櫻井、俺が座らせてやらないと、座れないのか?世話が焼けるヤツだな」
ため息交じりに言って、私のそばに来た高橋からサッと逃げる。
「そんなことはないからお構い無く!大丈夫。ほら」
ソファの隅っこに座ると、彼はテレビの前に座った。
「今準備するから、おとなしく待ってろ」
「準備?」
「こ・れ・だ・よ。映画鑑賞。まあ、家デートの定番だろ」
高橋は一枚のブルーレイをひらひら振った後、セットして私の隣に座ってリモコンをポチポチ押した。
「ネットでいろいろ検索したんだが、これが一番評判良かったぞ」