シークレットな関係
そのあとは滞りなく仕事をして定時に終え、電車を乗り継ぎ、とあるビルの七階にある事務所までやってきた。
久しぶり過ぎてドアを開けるのも躊躇する。
以前来たのは二年半くらい前、事務所のデスクに映画の脚本が置いてあるのを見つけた私はソファに座って読んでいた。
『この脚本素敵。話が来ているならやってみたい』
自分がやるなら、と想定して夢中で読んでいた私は専務に言われたんだった。
『悪い、それ宇津木のだから』
読んでいた脚本をサッと取り上げられたのだ。
あのときの専務の冷たい目をありありと思い出す。
ヒットしたこの映画で脇役で好演した新人女優は、一躍注目されて今の人気に至っている。
入った途端「あんた誰?」という顔をされたらどうしようか。
誰か知ってるスタッフがいればいいけど・・・。
ここまで来てこんな気持ちになるとは我ながらに情けないと思うけど、みんなから忘れられているという現実がここでもある気がして怖いのだ。
でも、怖じ気づいていたら何も変わらない。
そうだ、変わろうと思って来たんじゃないか。
意を決して、事務所のドアを開けた。
「おはようございます」
・・・誰もいない。
二年半前と全然変わらない部屋の配置。
入り口側に置かれた応接セット、その向こうに四つの事務用デスクが並び、パーテーションで区切られたドアの向こうが社長室だ。