シークレットな関係
高級な料亭での食事なんて、私のお財布では会計ができそうにない。
帰ろうと言いかけると、店員が戻ってきて「お待たせしました。どうぞ」と笑顔で案内され、言い出す機会を失った。
こうなれば、お茶漬けとか、一番安いもの一品だけにするしかない。
四畳半ほどの個室の真ん中にあるテーブルをはさんで座り、メニューを探してみるけれどそれらしきものはどこにもない。
やっぱり、食事に来るのは予約者だけなのだろうか。
セレブ感がぐんと増してしまい、手のひらに汗が滲んできた。
こんなところ、お茶漬けなんてなさそう・・・。
高橋はといえば、店員と親しげに会話をしていた。
「じゃあ、竹のコースを二つ」
「え、二つ?コース?待って。あの、私は」
「あとビールを。櫻井も飲めるよな?」
「はい、飲めます。じゃなくて、その」
「ビール一本でグラス二つ。先で」
問答無用とばかりに私の声を無視し、サクサクと注文する高橋の手慣れた様子に唖然としてしまう。
料理を断るタイミングをすっかり奪われ、まごまごしているうちに店員は「かしこまりました。お待ちください」と言って出ていってしまった。
静まる部屋。
一枚板で作られた重厚な食卓テーブルに、ふかふかの座布団のついた座椅子。
開けられた障子の向こうに見える庭には、錦鯉がたくさん泳いでいそうな池がある。
日が暮れて暗くなった庭がライトアップされて、緑の葉をたたえた木々が美しく見えた。
どうしよう、お尻のあたりがむずむずして落ち着かない。
今日、お財布の中にはいくら入っていたっけ。
確か三日前に二万円を引き出して通勤費を支払ったから、残りは・・・。
どう計算しても心もとなく、また汗がじわっと出てきた。